漆器を譲っていただいた。会津塗だという。
「会津塗」というのは知らなかった。あちこち旅をし、会津地方も何回か訪れたが出逢わなかった。
KOUGEI JAPANのホームページに「会津塗の産業としての歴史は、1590年(天正18年)、蒲生氏郷が会津に入封したときに始まります」とある。津軽塗や輪島塗よりも早くから盛んだったようだ。
この会津塗は30年前に会津の骨董屋で買ったという。「有名な人だと聞いたけどねぇ」と言っていたが、どこにもサインがなく、誰がつくったのかさっぱりわからない。名のある人はサインをするのではないか、いや、有名過ぎてサインする必要がなかったのかと都合よく妄想する。
木箱の蓋に「会津洗朱 秋草船蒔絵 吸物椀」と書いてある。「洗朱」というのは漆の色のことで、オレンジ色に近い朱である。
これが作った人のサインに違いないと、知り合いの学芸員に教えを乞うた。
「弐拾人前内」だと思います、との返事が来てがっかりする。名前じゃないんだ…。「20人前」?…汁椀10客なのに20人前??
カビや汚れを洗い流して拭いた。
しばらく眺めていると、その美しさがわかるようになってきた。朱の漆は好きではなかったけれど、年月を経た漆独特の光沢に考えが一変した。
蓋の裏側にも波の模様がある。
全て同じ配置なのか調べて見ると、次の写真の右の模様のように明らかに違うものがあり興味深い。いたずら心で描いたのだろうか。
秋の草と船の舳が描かれている。
漆は古代の遺跡からも出土するくらいに長持ちする。数十年前、あるいはそれ以上前の職人が丹精込めて制作した漆器を、今私が撫で愛でている。
ここ1週間ほど漆塗りを中断しているが、こういうプロ中のプロが制作したものを身近に置き、それでも漆塗りを続けるのか、自身に問うている。
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