その男は頭が異常に大きく、初めて見る人は一瞬目をそらし、その男の視線と合わないことが確実になったところでじっくり観察するのが常だった。
顔は特別大きいというわけではない。しかし額から頭頂に上がっていくにつれ、すり鉢状に拡がっていき、見ていると何か落ち着かない気持ちになるのだ。それでいて直ぐには目をそらせないといった感じである。
男は子どもの頃から、周りの子どもたちにその頭の大きさをからかわれた。
「頭が歩いてくるぞ!」
小学生の時に、頭の大きい人の民話を読んだ。頭の上から木が伸び、その木を引っこ抜くと雨水が溜まり、最後はその池に飛び込んでしまう…そんな話だった。
その男は私です。頭が大きいので、サイズが合う帽子は滅多に見かけません。小さな帽子を被ると顔が横からはみ出るので、帽子を被るのは嫌いでした。
レザークラフトを始めていくつか作品を作りました。
帽子を作れないだろうかと思いました。自分に合ったサイズの、好きなデザインの帽子を被る。希望が湧いてきました。
洋裁学校に通った妹、レザークラフトの先生に尋ねても、私が考えているような帽子は作ったことがないようで途方にくれました。
その日からは毎日、布団に入って眠るまでの時間ですら、帽子作りの手順を考えて過ごしました。
突然、できるような気がして始めました。
市販の帽子を参考にして、サイズの大きな型紙を作ります。
いわゆるキャップは、6枚の布が縫い合わせてあり、前の2枚の底辺が少しだけ短くなっていることに気がつきました。短い分、つばが上がるのでしょう。
オリジナルなのだから思い切ってつばを2㎝長くしてみます。
型紙を切ります。
つばは市販の芯材がありますが、どれを選んでいいのかわからないので、家にある材料を使うことにしました。
「ねじねん」という器具を使って印をつけ、縫い代を確保します。
2種類、計6枚分の革を切ります。
つば用の革も切ります。
一番奥の革は結局は使いませんでした。
菱目打ちで穴を開け、ステッチングポニーで挟んで縫っていきます。
ボタンに革を被せます。
アクセントのステッチを入れていきます。この手縫いの工程には丸一日かかってしまいました。ぐったりです。
それにしてもでかい頭だなぁと、自分でも呆れてしまいました。
つばに革を縫い付けます。つばはプラスチック板とクッション材の2枚を重ねているため、菱目打ちをしても簡単に穴が貫通しません。穴が硬くて拡がらないため、糸を通すのにペンチを使いました。ステッチングポニーなどの器具を自作していなかったら確実に腕を傷めていたでしょう。
ゴム糊でつばと帽子本体を仮止めします。
内側の帯も重ねてゴム糊で仮止めします。
糸を通す穴を菱目打ちで開けます。
縫いあがりました。後半、やっとどうすれば綺麗な縫い目になるかがわかりました。
乱れた縫い目のところをやり直すことはしませんでした。
やはり裏地をつけることにします。
初めてミシンを使いましたが、ぶっつけ本番なので裏側の縫い目はとても見せられません。
この裏地は取り外して洗濯ができます。
6か所、マジックテープで止めてあります。
亡き飼い犬、アベル君をワンポイント、縫い込みました。
娘に被ってもらいました。
大きさを調整できるようにしました。いや、しなければなりませんでした。
自分の頭が巨大であることを意識し過ぎて、3㎝も大きな帽子をつくってしまったのです。
他にもサイズ調整の方法はあるようですが、今さら革を切りたくなかったのと、後ろ側がちょっと殺風景だなと思っていたので、怪我の功名…ちょうどよかったかなと思います。
つばが長いのは顔が隠れ、紫外線対策にもなりそうです。
丸々3日以上かかりました。朝から夜遅くまで、帽子のことばかり考えていた3日間で、仕事は中断したまま、給料が振り込まれていることも忘れ、材料の支払いが口座から引き落とされるのも忘れていました。
今日が何日で何曜日か、これから家族に尋ねてみます。
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