酒飲みへの憧れ

懐かしい時を求めて

歳をとるとアルコールを体内で分解する能力が落ちるという。

周りの人を見ると、60歳を過ぎても以前同様に飲み続ける人と、徐々に減る人に分かれている。

私は若い頃すい臓を病んでおり、本来酒など口にすべきではないのだろうが、急性の病気だったせいか完治し、45年が経過した。

学生の頃から社会人に成りたての頃まで、急性アルコール中毒で3回程病院に運ばれている。友達に近くの診療所まで担いでいってもらったこともある。情けない話だ。

私は歳を取り酒を飲む量が減った方だ。直近1週間、飲まなかったが平気だった。飲まない方が睡眠の質が良いのは明らかである。

しかしその分、酒を飲んだ楽しい思い出や酒を飲む楽しい場面が、頭の中を駆け巡るようになった。

本棚からそれらに関する本を引っ張りだしてみた。

「めざせ!日本酒の達人」「日本の酒」「居酒屋の誕生」「酒が語る日本史」、「ワインに親しむ」「ワインの世界史」「ビールと日本人」…これらは酒に関する真面目な学習資料である。

一方で、なぎら健壱の本は、知識、ウンチクに関係なく、これぞ酒飲みの鑑だと感じさせてくれる大スターの檜舞台である。私も彼のように飲み続けよっぱらい意識を失いたい。しかし私の場合、先に述べた通り、限度を超えると翌朝から嘔吐が始まり、30回くらい吐くと胃液、胆汁が出、胃痙攣を起こし、病院でモルヒネを打つことになる。そうならないなぎら健壱は、私にとって憧れのスーパースターである。

山口瞳の「迷惑旅行」「酔いどれ紀行」もいい。友達と旅に出て風景画を描く。その途上、どころか絵を描いている時間以外は酒を飲んでいる。お金持ちになれたら、こういう時間とお金の使い方をしてみたいと思う、これも憧れの世界である。

もう少し歳をとり、もういよいよ残り時間がなくなってきたら、「京都老舗百年のこだわり」に出てくるような店のカウンター席で、馴染になった板さんと話をしながら美味しい酒を飲みたいと、これも憧れの一つである。

小川国夫の「悲しみの港」の舞台は地元だから、架空の店ではあっても想像は膨らみ、そこに自身の実を置いてみたりする。

映画に出てくる酒席シーンでは、「男はつらいよ」で寅さんが飲む酒は楽しく美味しそうだ。若い頃に観た「聖なる酔っ払いの伝説」は、ストーリーは全く覚えていないが、朝からワインを飲み続ける主役の姿に憧れ、色々なワインを飲むきっかけになった。

と…、こんなことを書いていたら我慢できなくなってきた。

よし今日は飲もう。

「駅弁女子」をパラパラとめくって旅気分に浸り、ピーナッツとスルメを口に含みながら缶ビールを口にする。

これも一興だなと楽しくなってきた。

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