昭和の文具店 12月12日

懐かしい時を求めて

虎岩文具店は、古い古い文具店である。店の奥さんは米寿といっていたから私よりも古い。

「ちょっと見せてください」と言いながら店に入る。「はい、どうぞ」と店の主人。

赤胴鈴之助のスケッチペンは半額で240円。昭和の時代に仕入れたものだろう。迷ったが見送った。

幽遊白書の文具セット。これは500円。ちょっと強気の値段だな。もちろん見送った。

「これは一体何ですか?」と店の奥さんに尋ねる。

小瓶のコーヒー豆の香りを楽しむものだという。これも見送った。

「ピンクレディーの筆箱はもうないですよね?」と尋ねると、「そういう目ぼしいものはもうない」という。「少し前まで森昌子の下敷きはありましたけどね」

結局この日は何も買わなかったが、4年近く前に三菱の色鉛筆7700番を買った。生産中止の発表があり、イラストレーターなどの要望により基本色だけ生産を続けることになった商品である。偶然発見して1セット(12本入)1,200円を買った。

久しぶりの売上に店の人はたいそう喜んだ。もしかするとケースが錆びているからと200円まけてもらったのかもしれない。

その頃、この色鉛筆は1万円近くの値をつけてネット販売する者まで現れた。いやな時代だと思った。

1か月後に店をのぞくとその色鉛筆はまだあった。それではと…しかし買い占めは良くないと思い、また1セットだけ買った。そんなことを数か月の間繰り返すうち、そこにあった色鉛筆5セット、全てを買ってしまった。

今日、4年ぶりに店を訪れ色鉛筆を見ていたら、店の奥さんは私のことを覚えていた。客に頼まれてばら売りした色鉛筆の残りがあり、それを私に買ってもらおうと思っていたという。「どこに保管したかわからなくなってしまった」「また後日」ということになったが、そこから話が弾んだ。

「色鉛筆だけでなく、竹とんぼと関取のメンコを買いましたよ」というと、「以前は小学校で竹とんぼを沢山買ってくれましたが、竹とんぼの飛ばし方を間違い顔に怪我した子どもがいたようで、それから注文がなくなりました」と寂しそうに語った。そんな時代になってしまったか…。

「鉛筆は古くても使えますが、ボールペンはインクが固まって使えなくなりますね」と言いながら、古いボールペンを正々堂々と販売している。きっと「使えない」と言えば交換してくれるのだろう。そんな緩やかな時間に身を置いていたら、何だか少しだけ優しい人になれたような気がしてきた。

今度行った時は何か買おうと、陳列された商品を思い返している。

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