友達から電話があり「水石に興味があるか?あるなら差し上げる」と言うので、小学生のように好奇心旺盛な私は「はい興味あります」と即答し、友達の家を訪れた。すぐに譲っていただけると思ったが「今日は石を家から持ち出すには日が悪い。後日改めて連絡する」と言われ、やっとその日がやってきた。
いつも通り仏壇のご主人に手を合わせてから友達と話をする。過日見せていただいた水石をもう一度じっくり眺める。最初の印象とは少し違う。
この石は大井川産で、鉱物としてはごく普通のものだと思う。しかし茶色の模様が面白い。髪を結った着物の女性が横向きに膝をつき、視線を落としている。視線の先には赤子がいる。帯の部分が膨らみ、羽織は赤子をも被っている。そして女性からは尻尾が伸びている。何かが化けているのかもしれない。などと妄想が拡がっていく。
「水石を始めるひとのために」高橋貞助,村田圭司,池田書店,1965の書き出しはこうである。
「最近の石ブームはまことに目を見張るほどで、新聞や週刊誌やテレビなどにも、石で大儲けしたおとぎばなしのような話とか、毎日曜日ごとに、ハイカーならぬ採石家たちにあらされて、ジャカゴの石まで抜き取られた河原のことが報じられる有様です」とし、人でにぎわう水石展示の写真を掲載している。
私自身はこれまで水石展を見たことはなく、伯父の家の玄関に雑多に石が置かれていたのをうっすら覚えている程度である。
それはともかくとして、そもそも「水石(すいせき)」って何だ。
同書によると種類は①山水景石(山や川の景情美を連想させるもの)②形象石(鳥や小動物などの形をあらわしたもの)③紋様石(花弁や雲や蝶などの形を石の面にあらわすもの)④色彩石(色彩があざやかで特に美しいもの)に分けられる。そしてもっとも水石らしいものは①だという。
また「水石としてうなずけないもの」として(イ)鉱物学や岩石学上の蒐集目的から集められた破片 (ロ)一人で持ち運べないほど、庭石のように大きく重い物 (ハ)二コ以上の石を組ませたもの(例外あり) (ニ)接着剤でくっつけたり、着色したり、細工したりしたもの (ホ)宝石的な価値に重点を置くもの、が挙げられている。
先ほどの石は③に分類されるだろう。
そして次の2つは②になるだろう。
この石は、仙人が袋を背負っているように見える。いや、烏帽子を被った公家か。
この石の出どころ、鉱物名は不明。
この石は、げっ歯類の小動物にも、イルカのようにも見える。時間が経つと違うものが見えてくるかもしれない。
この中でどれが一番好きかと言えば、最初の女性像の紋様石である。裏側はこうなっている。茶色の部分で割ると、別の紋様が現れるのだろうか。
「石を家から持ち出すには日を選ばないといけない」と言った友達の言葉を考え合わせ、石には何かの力が宿っているのかもしれない。このブログを書きながら写真を見ているだけでも、時間とともに何かが変化しているような気がするのである。
石には太古の記憶が刻まれている。そこから発せられるメッセージを感じ取ることができたらと思っている。
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