歌川広景 江戸名所道化盡 12月8日

イラスト

友達の家に遊びに行った。その時友達が「夢を見てね。浮世絵を人に差し上げる夢だった」と、私が前から欲しがっていた浮世絵を譲ってくれた。

歌川広景の「江戸名所道化儘(尽)(えどめいしょどうけづくし)27」である。

鳥が空から紙のようなものを撒き、二人の男が必死にそれをかき集めている…と思ったが確かめるため、「ヘンな浮世絵 歌川広景のお笑い江戸名所」太田記念美術館/監修,日野原健司/著,平凡社,2017を買った。

同書によると「『鳶に油揚げをさらわれる』諺をそのまま再現した絵」であった。鳥はトンビで、撒いているのは紙ではなく油揚だった。「油揚げ泥棒」というタイトルが付されている。

「芝飯倉通り」は、現在の東京都港区麻布あたりで、農村だった地域が江戸の発達に伴い市街化して賑やかになったようである。

坂道の向こうに見えているのは江戸湾で、途中に増上寺や大名屋敷がある。

歌川広景は、歌川広重の門人で、作品の制作期間は1859年から1861年までの2年8か月と短く、謎が多い浮世絵師のようである。歌川広重が亡くなったのは1858年の9月で、その3か月後の1859年正月に江戸名所道化盡の刊行が始まったという。(同書より)

そうかトンビと油揚げだったかと、しげしげと眺める。

二人の男の顔が極端ではあるが面白い。

油揚げだから周りの人は笑っているのだ。お金だったら争奪戦に…と思ったけれど、紙幣が広く流通するのはもう少し先。

右の男は草履が脱げてしまっている。足は指先まで丁寧に描かれている。

酒と肴を置いているのは「まるしょう」という店だろうか。大きな鮭のような魚と大きなタコが宙づりになっていて、おそらくその奥には、良質な日本酒が辛党の胃袋に収まるのを心待ちしているに違いない。酒は最初、小売されているのを家で飲んでいたのが、江戸時代にその場に居て飲むようになり「居酒屋」と呼ばれるようになったとか。

何だかんだ、やはり一番気になるところはいつも同じで、目の前の男がトンビに油揚げをさらわれようが、私はあのタコをつまみながら良質な日本酒を味わいたいと思ってしまうのである。

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