いずたび⑥定宿「小はじ」 12月21日

懐かしい時を求めて

定宿の「小はじ」に最後に泊まったのはコロナ前だった。最初は15年程前だっただろうか。下田市内で働く叔父の紹介がきっかけだった。

いつも電話で「お久しぶりです。お元気ですか」と挨拶してから予約していたが、今回初めてネットで予約した。日頃、宿を確保する手段はネットだが、「小はじ」だけは電話予約で、ネット予約に時代の移り変わりのようなものを感じた。

宿は港に面している。潮の香りが懐かしい。

一日の最後の日差しに船が彩られている。

部屋はいたってシンプル。この6畳間は初めて。

机の上に色々な案内や注意書きがあった。これを見たのは初めて。

洋菓子の販売を始めたようなので応援しようと思ったが、苦手なバターがたっぷり入っていた。

宿の女将…いや前の女将になるのだろうか、おばさんが部屋に挨拶に来てくれた。おばさんの顔を見るとホッとして、これまでおばさんの人柄が好きでここに来ていたのではないだろうかと思った。

「ご案内」のイラストが綺麗で「誰が描いたのか」尋ねたら、板さん(息子)の友達だという。

温泉に浸かり畳の上でゴロゴロしていたら夕食の時間になった。

ビールで乾杯。

食事に午後8時の時間制限が設けられた。以前はそんなことは言われなかったけれど、ダラダラと長く飲み続ける客がいたのだろうか。労働環境の改善だろうか。以後、時間を気にして時計に何度も目を落としながらの食事となった。

器も前と変わった。尋ねると有田焼とのことだった。

ビールはコップ1杯とし、日本酒にする。前は1合単位で色々な酒が飲めたように記憶しているが、300ml瓶、4合瓶といった瓶単位の注文に変わっていた。開栓すると酸化してしまうから合理的ではあるが、ちょっと淋しい気もした。

「オジサン」という魚が左側、時計でいうと8時のあたりにちょっと姿を現している。

「オジサン」てまさか人間のおじさんの肉じゃないだろうなと呟きながらネットで調べると、確かにそういう魚がいた。顎の下に2本の長い髭を伸ばし、年老いた風貌である。

伊勢海老は刺身にしてもらった。まだ神経が生きていて、足がゆっくりと上下する。

黒船マシュー純米大吟醸。なんだこれは。

300ml1,980円だから昨夜の1合1,890円よりは安い…が高い。

下田市内に醸造所はなく、オーダーメイドしたものだった。

何やら凄い風貌。

醸造所を確認しておく。

サザエの唐揚げが絶品。生で美味しいものはどう調理しても美味しいのだろう。

今夜も鴨鍋が出てきた。妻が肉を食べてくれと言う。

この器の絵もいい。

最後にご飯を食べて満腹になる。

時計を見ると7時30分にもならない。時間を気にして箸を急がせたのかもしれないが、時間制限の告知は私達には不要だと思った。他の2組の夫婦は私達よりも10分早く席を立っていた。

2回目の温泉は明日の朝にして床に就く。

明け方、漁を終えた船が帰ってきた。

朝食。昨夜の伊勢海老が味噌汁に浸かって再登場。エビの味噌を堪能する。

他の宿泊客が部屋に飾られたパネルにしきりと見入っていたので、私達も真似をした。

このパネルの隣には、天皇陛下家族が海岸を歩いている写真が飾られている。須崎御用邸があるから歩かれたのだろう。

飲み物代を清算してチェックアウト。宿代が1人13,000円程で、飲み物代と入湯税が2人で4,700円だった。

民宿の前に手入れされた網が干されている。いつもながらのこの風景も好きだ。

「こはじ丸」は前の女将のご主人が乗っている。ご主人は板前だと思い込んでいたが電気屋で、前の女将が包丁を握っていたことを初めて知った。その息子が京都で修業し、現在は息子と嫁の代に移っている。

ご主人が船に乗るのは趣味の釣りのためで、前日にアジを釣り、それを頂いた。

隣の船に向かって「今日は行くかぁ~」と大きな声を出すと、「お~」と返ってきた。

ご主人に朝の挨拶をし、「アジごちそうさまでした」とお礼を言ってから散歩に出た。

少し離れたところで「小はじ」を振り返る。

漁村の美しさを感じる。

関東南部と静岡県の沿海地方及び伊豆七島に分布する「イソギク」だろうか。

海岸に自生する「マサキ」だろうか。

ルアーで魚を狙う釣り人。ちょうどハゼのようなカジカのような魚を釣り上げたところだったが「美味しくないのでリリースだよ」と言った。

狙っているのは青魚とのこと。

海岸に沿って進む。

薬師如来に由来する「ヤクシソウ」か。オオハナアブが蜜を吸っていて、カメラのレンズを近づけても逃げない。

潮の流れを眺めながら宿の駐車場に戻っていく。

あちこちにツワブキの葉が。

駐車場が近づいてきた。

潮風をたっぷり吸い込んだ。

下田の町を散策し、帰路につくことにした。

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