デスマスク
陶芸教室に見慣れない人が入ってきて、教室の隅で何やら準備作業を始めた。
県立美術館の学芸員で、ライフマスク講座の事前確認をするとのことだった。私の顔で試してもらいたいと目を輝かせたが、遅れて美しい女性が現れ、その女性の顔がモデルになった。
そりゃそうだろうなと落胆し、背を向け自分の陶芸に集中した。
後日、ライフマスクを作ってみたくなったが背を向けたため、わからない手順があった。しっかり見て聞いておけばよかった。
やってみるしかない。
顔の各部分の大きさに切ったガーゼに石膏を含ませ、顔に貼っていく。呼吸は鼻からで、ストローを刺す。私は石膏が目の中に入るのが嫌だったので、目の周りにサランラップを貼った。
目が塞がれてしまうため一人ではできず、娘に手伝ったもらった。
石膏の乾燥スピードは速く、顔に貼る前にガーゼが固まってしまい、1度目はそこで失敗した。
2度目にスピード重視で成功。
石膏を含んだガーゼは5分程度で固まったが、それが顔から取り外せない。皮膚から剥せないのではなく、前髪が石膏に入り剥そうとすると髪が引っ張られて痛い。太いストローを鼻の奥まで刺したせいで、少し角度が変わるだけで痛い。鼻血が出そうだ。
娘に慎重に前髪を切ってもらってやっと取り外すことができた。芸術は痛みを伴う。
あとは石膏の内側に陶芸粘土を押し込めばいい。
目の周りのサランラップでできた細かいシワを消した。
乾燥すると白っぽくなる。
桜色の釉薬を少し霧吹きして焼いた。左右の頬が拡がってしまった。
変な顔だが、これが私のデスマスクなのだ。
ライフマスク
石膏の型は何度でも使えるので、今度は瞼を切って開けた。
以前作った眼球をはめてみる。生命が宿った感じ。
乾くと白っぽくなる。横から見ると、オペラ座の怪人。
これも桜色の釉薬を霧吹きして焼いた。
こういう顔をしているのか。
私は眼鏡をかけている。
髪の毛は、こんなに黒々もじゃもじゃではないが、ある。
娘が、私の妹に似ていると言ったり、妻が娘の夫に似ていると言ったりした。
ストレートの髪にすると、より私に似てくる。
髪が長いと印象が変わる。
眼球の色を変えれば表情も変わるに違いない。今度は口を切って開けて、歯と歯茎をつけてみよう。
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