喫茶店はしご 11月21日

懐かしい時を求めて

漆塗りをして休憩していたら、携帯電話が鳴った。釣りのM先生からだった。

「お茶を飲みながらお話ししましょう」。いつも通りの内容だった。

喫茶店「葦」

車で先生を迎えに行き、藤枝東高校近くの喫茶店「葦」に入った。2回目だったか3回目だったか…。

駐車場は空きがあったが、自転車がずらりと並んでいる。「ご婦人たちが集まっているねぇ」と先生。店に入ると今日も満席にちかい繁盛ぶり。平日の午後のひと時を、私よりも年配の人たちが仲間で集まり楽しそうに過ごしている。

贅沢な時間だなと窓の外を眺める。

ケーキセットを注文。アップルケーキに生クリームが乗っている。りんごが美味しい。どうやって作るのだろう。無くなってしまうのが惜しくて、ゆっくりと少しずつ食べる。

喫茶店「Café de MOCHA」

話が弾んで、もう1軒喫茶店に寄ってみようということになった。藤枝駅北の「Café de MOCHA(モカ)」。駐車場がたっぷりあり、駅近くなのに凄いなと感心する。

ここでも年配の人たちが静かに贅沢な時間を過ごしている。ここは裏口のようだ。

M先生が店主に「久しぶりの挨拶」をしている。私も話に加えていただき、温かい店主でよい喫茶店だなと思った。

店の隣では、店主の息子さんがコーヒー豆を売っているらしい。そうか、先輩の子が昔アルバイトしていた店か。

先生の話

先生の話はいつも面白い。

小川国夫

好きな作家、小川国夫の子どもの頃の話を聞いた。結核を患い、大きな体を猫背にして歩いているのをよく見たという。

小沢書店から刊行された小川国夫全集は、小川国夫の秘書を経て戸田書店に勤めていたSさんから紹介されて1冊買って読んだが、当時は面白いとは思わなかった。小川国夫が好きになったのは比較的最近のこと。「悲しみの港」は小川さんが生まれ住んでいた藤枝市が舞台になっており、また文士の生活時間がなぜか懐かしく、心に刻まれた一冊になった。

M先生の仕事

先輩たちがどう生きてきたか、それを振り返りどう思っているのかといった「人の歴史」を聞くのが好きだ。

M先生は、高校卒業後、県立農協職員講習所で1年学び…しかし農協には務めず、運送会社に20年近く務めた。隣の席の女性と結婚。当時車の免許を取得する人は少なく、会社の人に免許を取るよう勧められた。しかし交通事故を起こす人の特徴「目の前の事象に過剰反応する人」が自分にも当てはまると考え断念したそうだ。

Mさんは運送会社を辞め、本の販売業に転じた。仕事の時間を自由に差配できるだろうと思ったのが理由だという。本が売れた時代。「平凡社版・国民百科事典」7冊1万円(後に「クストー海の百科」)は飛ぶように売れたなぁと笑ったが、いつも売上成績に追われ「営業なんてやるもんじゃない。趣味の時間は全く持てなかった」と呟いた。

同級会に集まった友達たちが、趣味を生かした合同作品展のようなものを開催しようと提案したとき、「自分には出品できるものが何もない」と寂しく思ったという。仕事ばかりの人生だったと。

「作品はなくてもずっと『釣り』があったし、今もあるじゃないですか」

仕事に打ち込めたことは誇らしいことだし羨ましいと、私は思った。

また車の免許を持っていないため、川に釣りに行く際は釣り荷を背負って徒歩と公共交通機関を乗り継いで行き、本の行商でも毎日歩いていたことが今の健康に結びついているのは本人も認めるところ。多くの同級生よりも長生きして楽しんでいるのは、この上なく素晴らしいことではないかと思った。

喫茶店のはしごは初めてだったが、今日も先生にご馳走になってしまった。

先生が酒を飲む人だったら、居酒屋でもっと話を聞きたいのだけれど、聞き足りないのがいいのかもしれない。

喫茶店の店主が先生の服装を褒め、あらためてよく見たら、確かにおしゃれである。

私の人生も、こうありたいと思った。

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