手術直後、医師から「母に軽いせん妄が起きている」と説明を受けた。
厚生労働省のホームページに「医療関係者の皆様へ 1.早期発見と早期対応のポイント」として「せん妄とは、身体疾患や医薬品、物質中毒・離脱などにより惹起され、他の神経認知障害では説明できない、急性に発症する注意・意識・認知の障害である。集中治療室(ICU)において、せん妄を早期に発見し治療を開始した症例と比べ、治療が遅れた症例では死亡率や院内感染のリスクが上がることや、せん妄を発症した患者では入院期間や医療費が増加することが分かっている。それだけでなく、せん妄は長期的な死亡率の上昇や認知機能の低下とも関連がある。また、患者はせん妄を起こしている間のことを記憶していることが少なくなく、記憶の有無にかかわらず患者の苦痛は大きく、その家族にとっても同様である。従って、臨床現場ではせん妄の予防や早期発見、早期対応が極めて重要となる」とある。
救急搬送され数時間後に全身麻酔で手術。目が覚めたらいつもとは違う場所にいて、部屋の中は無機質で気持ちが和むような飾りはない。体を動かそうにも、人工呼吸器や点滴の管を抜くことが無いよう手をミトンで覆われベッドに固定されている。そういう状況が続けば、健康な人でも認知の障害が起きておかしくない。
認知が進まないよう家族で話し合う。こういう時、看護師の娘、理学療法士の娘は役に立つ。
面会して話をする。思い出の写真を見せる。部屋に大きな時計やカレンダーを掛ける。
面会時間は15~17時で、1回2人まで15分。面会の間は家族の見守りにより手の拘束が解かれるため、家族が入れ替わって面会を連続するのが良いのではないかと思った。
昨日は私と妻がトップバッター。次が娘2人。その次が妹と甥。
驚いたのは車椅子に座っていたこと。これもリハビリの一環とのことだった。もう一つは酸素の管が外れていたこと。[人工呼吸器の管を肺に送管]→[高圧酸素を鼻から送る]→[酸素カニューラ]と理想的な経過を辿ってはいたが、まさかこんなに早く自発呼吸オンリーになるとは。モニターを見ると酸素飽和度は97ある。
私はここ二日、面会しかなったが、それを母が「私のことを苦にして自殺したのかと思った。大丈夫か?看護師に尋ねたが大丈夫と言われた」と心配した。ちょっと変だが笑ってしまった。
もしかしたら私のことを認識しないのではないかという不安があり質問すると、何を馬鹿な事言ってるのだと顔をしかめたあと、私の名を呼び「美男子」と続けた。妻の名の後には「美女」を。これもちょっと変だが面白い。
「あと10年は生きられないかもしれない」と言うので、「僕もそう思う」と言おうとしたら、妻が励ましていた。
不思議なことがあった。
数日前に鳥の掛け軸を手に入れ色々調べていたが、描かれた鳥の種類を友達にLINEで尋ねた瞬間、妹からLINEが入り、「母が鳥が沢山いて気持ちが悪いと言っている」とのことだった。
その掛け軸は「深山群鳥図」といい、鳥が100羽以上描かれている。母は私の頭の中にある鳥を見たのだろうか。いっときであれ母の事から掛け軸に思考の中心が移ったことに不安を覚えたのだろうか。
その鳥はカササギで、縁起の良い鳥であることを友達から教えてもらった時にはホッとした。
厚生労働省ホームページに「患者はせん妄を起こしている間のことを記憶していることが少なくなく、記憶の有無にかかわらず患者の苦痛は大きく…」とあるが、母の意識が鮮明になった際には、どのような鳥をどのような構図で見たのか尋ねてみたい。
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