映画館に通っていたころ 8月9日

懐かしい時を求めて

友だちのメールに、映画「シンドラーのリスト」について書かれた文言があり、それがきっかけで色々なことを思い出した。

ヴィクトール・フランクル

オーストリアの精神科医でホロコーストから生還したヴィクトール・フランクルの「夜と霧」を読んだのは学生時代だったが、その後「それでも人生にイエスと言う」が出版され、フランクフルの物事の捉え方に感銘を受けた。

インターネットを見れば毎日のように事件が発生していて、滅多に驚くことはなくなってきたが、殆どの報道が一面的で残念に思っている。

なぜ事件が起こったのかという根本的な動機は解明されなければならないが、それを知っても物足りなさが残るのは、取材する人間側が、意識・無意識に関わらず「事件を起こしたとされる対象者と自分自身は全く別の人間である」という線引きをしているからである。

被疑者が置かれている状況、生い立ちに身を置き、もし自分がそのようであったらならどうなっていたか、どうしていたかという「自身を置き換える想像力」が欠けている。

「いえ、そういう手間のかかる役割は物書きに委ねましょう」と放棄され、社会全体の思考が浅くなっている傾向にないか。

フランクフルは収容所の看守に対しても恨みを抱くのはでなく、自分もその状況に置かれれば、看守同様の行動をとっているかもしれぬと自己分析する。精神科医だからという一言で済ませてしまってはいけない人間の洞察がある。

ソハの地下水道

「ソハの地下水道」も実話に基づいて制作された映画で、ホロコーストを描いている。

最初は小悪党だったソハが、地下水道に隠れているユダヤ人を救う話である。

生還した女の子は映画制作当時には高齢になっていたが、映画を観て「この作品に描かれた通りでした」と語ったのが印象的だった。

彼女達を護ったソハだが、「1946年の3月12日、ソハは娘のステフチャといっしょに自転車を走らせていた。急な斜面にさしかかったとき、ソハはロシアの軍用トラックが車体をかたむけて、ステフチャのむかう先へ暴走してくるのを見た。無我夢中で自転車のペダルをこいで追いつき、娘をつきとばして安全な場所へ移動させた。その瞬間、ソハは大型トラックと衝突し、めちゃくちゃに叩きつぶされた自転車のフレームの下で息絶えた」(「ソハの地下水道」ロバート・マーシャル,杉田七重/訳,集英社,2012)。

白磁の人

「白磁の人」も小さな映画館で観た。これも実話に基づく映画。

日韓併合から4年後、林業技師の浅川巧が朝鮮半島に渡り、朝鮮の山々を緑にする使命を果たしながら、朝鮮語を学び、朝鮮の文化や工芸品の素晴らしさを見いだしていく。民族の壁を越えた友情を築くが、それらの行為が日本の憲兵に目を付けられて殴打される。

映画には描かれなかったが、この憲兵と浅川巧は同郷の幼馴染で、憲兵が子どもの頃、周りからいじめられていたのをいつも庇ってくれたのが浅川巧で、そのことに憲兵が気づいたのは浅川巧が亡くなった後だった。(「白磁の人」江宮隆之,河出書房新社,1997)。一方の浅川巧は、この憲兵が幼馴染であったことに気づいていながら、そのことには一言も触れずに暴力を受け入れたのではないかと、私は勝手に思っている。

映画には、抑圧されてきた朝鮮の人々に日本人居住区が襲撃された際、朝鮮の人々が、そこが浅川巧の家であることを知り、頭を下げ引き返していくシーンが描かれている。残された妻と子の「お父さんが護ってくれたんだ」というセリフが印象的だ。

グリーンマイル

グリーンマイル」(スティーブン・キング,新潮社)の第1巻が文庫本で出版されたのが1997年2月1日だった。本屋で手に取ると、何か通常とは異なる刊行形態であることが帯に書かれていた。「全米での大評判の刊行形態にならい、毎月1冊全6巻で刊行」

第1巻を読んだが、実はさっぱりわからなかった。なんなのだ、これは。

しかし翌月に2巻を買い、また翌月と、全6巻を読み終え、やっと最初に書いてあることが深い意味を持っていたことがわかった。

日本で映画が公開されたのは2000年。

大学の英文学の教授が「海外小説を読む場合、その背景にある宗教を知らないと理解できないことがある」と言ったのがずっと残っている。

「グリーンマイル」には、キリストの受難が今でも繰り返されていることが描かれていると私は思っている。神が宿っている身近な人をないがしろにしていないか、排除していないか、自身を問うきっかけになった作品である。

ショーシャンクの空に

1988年に出版された「ゴールデンボーイ」(スティーブン・キング,新潮社)に収められている「刑務所のリタ・ヘイワース」が映画の原作。160ページちょっとで、300ぺー以上あるもう1篇の方が本のタイトルになっている。

日本では1995年に映画が公開され、それより少し前に原作を読んでいた。原作と映画は全く同じというわけではなく、その違いがどちらも魅力的である。

私はこの映画が好きでDVDを買い何度も観ている。

少し前にモーガン・フリーマンに残念な話題が持ち上がったが、この映画が今でも一番好きであることに変わりはない。

映画・パンフレット・原作本

映画を観て感動したら売店でパンフレットを買う。パンフレットを見て現実と虚構の境を見分けたり、出演者がこれまでどんな映画に出演していたかを確認する。

さらに原作本を読んで理解を深めることもする。映画を小説化したものは手に取らないが、原作には映画化されていない部分があり、「白磁の人」のように、感動的な情報を新たに得ることもある。

「白磁の人」は、BGMのHakuei Kimが弾くピアノ曲「道」を買ったし、「シンドラーのリスト」はピアノ譜を買った。

映画館に人が集まり出していると聞いた。チケット価格の値上がりは残念だが、新たな映画、新たな音楽、新たな小説に触れていないと心が老化してしまう気がする。戒めたい。

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