本の行商
昔は本の行商をする人が何人も私の職場を尋ねて来た。父がそういう買い方をしていたので、私もそうするものだと思い、太宰治全集、宮沢賢治全集、日本の民話や昔話の全集、漫画で読む古典全集など、訪ねてきてくれれば何か買うようにしていた。
その一人、Mさんが引退したのはいつのことだろう。最後に買ったのは、東洋文庫や別冊太陽だったと記憶している。
釣りのM先生
最後の頃、釣りの話になり誘ってくれたが日程合わず、6年以上経ってしまった。ふと思い出し、連絡してみる。80歳は超えているだろうから他界している可能性もある。生きていたとしても覚えていてくれるだろうか。
携帯電話で呼び出し、数回でつながった。
Mさん第一声「いや~、久しぶり~!」。
「生きていたぁ~」と私。
何だか幸せな気持ちになった。声は50代のように張りがある。
そこから釣りの話をした。Mさんの釣りは、毛鉤で鮎を狙うらしい。やったことがない釣りなので興味津々。川なら海ほど紫外線は強くないのではないか。
稚鮎遡上の情報をいただいた。もう少し待たなければいけない。
哲学者・内山節
以前Mさんが釣りをしている時に、内山節と一緒になったと聞いた。内山さんは購読している新聞に何度も投稿しており、記事を切り抜いてファイルしている。著書は5冊くらい読んだだろうか。本棚から「いのちの場所」岩波書店2015年刊を取り出す。
「つまり人間の奥底には、全てと結びあっている世界があるのであり、それは個体性に依存するものではないのである」
普遍的無意識
「普遍的無意識」に思い至った。ユングが見た第一次世界大戦勃発を予知するかのような夢。
普遍的無意識に至るまでの経験はないが、無意識から意識へ働きかけをする夢は何度も見ている。
父の死
一つは父の死。風呂場で父が突然倒れる夢を見た。衝撃で夜中に目が覚め、心臓の鼓動に耳の奥が圧迫された。父はその通日後に突然死んだ。
予知夢というよりは、私が無意識で感じていた父の生命の波動の弱まり、その情報の蓄積が夢という形で意識へメッセージを送ったのだと思っている。
自由を求める本心
もう一つはごく最近のこと。
夢。精神病院にいる。周りにいるのは北欧の女性たち。その中の老婆が私の腕をつかもうとした。私は捉えられてはいけないと思い逃げようとした。しかし逃げるには、高層ビルから飛ばなければいけない。隣のビルまでには距離がある。次の瞬間、飛んだ。落下せず、空を飛ぶことができた。子どもの頃父と魚とりをした川の清流の底に、斑の美しい魚が生き生きと泳いでいる。空を飛びながら歌を唄っていた。その歌に感極まり、涙があふれ出た。
涙を流して目が覚めた。
その頃、仕事を続けるか辞めるか、ずっと自問自答を繰り返していた。そうか、私の本心はこの場所から飛び立つことを望んでいるのだ。隣のビル…転職を考えた際に興味を示してくれた社長の姿が頭をよぎった。
それから数時間後、その社長から電話が入った。これも無意識からのメッセージだろうが、私の意識が他の人の意識と深いところでつながっていることを否定できない気もした。
もう迷うことはない。そう思って辞表を提出した。
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