新たな幸せ

カリンバ

1年間の休暇

1年間の休暇が終わろうとしている。

もう働くことはないだろうと思いかけていた昨年の夏、先輩が声をかけてくれた。無収入の私を心配し、予定を早めて4月1日からの勤務になった。

思い返せばほんとうに充実した1年だった。

妻に変わり私が主夫となって家事を切り盛りした。料理、洗濯はもちろんのこと、床下のシロアリ調査や浴室の換気扇清掃、ブラインドの修理など、気にかかっていたことを片付けることができた。

妻が夏に退職すると共有する時間が増え、ウォーキングや卓球、温泉への小旅行などを楽しみ、実家の母が入院してからは色々助けてもらうことが多く、時間に縛られない人が身近にいることの有難さを感じた。

再就職

仕事の内容はおおよそ把握している。

日々の事務的業務に不安はないが、大学で教鞭を取る人や研究者とスムーズに話ができるよう、猛勉強が必要なことや、政治や経済情勢にアンテナを高くして過ごさなければいけないことに一抹の不安がある。既に計画されている講演会などに関する「防災工学」「マルクス主義哲学」「森林経済学」といったテーマは、聞いただけで頭が痛くなりそうだが、給料をもらうということはそういうことだと前向きに捉え、マーカーを握って関係書物を読み込むことにする。

静岡という「私が住んでいる町よりずっと都会」の生活は、刺激に満ちたものに違いない。過去に2回、計4年の静岡勤務は、若かったこともあり、楽しい思い出ばかりだ。働くのはこれが最後だから、色々なものを脳裏に焼きつけておきたい。

家族

4月の下旬に母が退院する。4か月の入院生活を終え家に帰る喜びは計り知れない。母との残り少ない時間を大切にしよう。初任給を母の為に使おう。

娘の婚約者のご両親との初顔合わせがある。娘から「結婚までは髪を黒く染めていてほしい」と言われていたが、待ちくたびれて総白髪になってしまった。1年前の写真と比べると、一気に20歳も歳をとってしまったか、何かの病と闘っているかのように見えるが、そういうことが全く気にならなくなってしまった。自然の流れに身を任せられるようになったことが、ちょっとだけ誇らしい。

趣味

暖かい日はモンキーで近くの林道を走り、花や虫や鳥との出会いを楽しみたい。雨の日は陶芸や漆、ギターや読書に時間を費やしたい。

陶芸は、いずれ自分の窯が欲しいと思っている。教室やクラブで格安で焼いてもらえるが、月1回では試行錯誤の回数が少なすぎる。窯を所有・維持するために働く…というのがモチベーションアップにつながるのではないかと思ったりもする。

漆は、自作した作品を見ていたら、もう一度やってみようという気持ちが湧いてきた。ストックの木材の中から木目が綺麗な板を選び、カリンバの輪郭を描いた。晴れたら電動糸鋸で切り出そう。拭き漆を繰り返すシンプルな塗りにしよう。

ギターは、課題曲の「奏」を目をつぶっていても弾けるようにしよう。ボイストレーニングが生きるよう、お酒は控えよう。家の中にある酒は、3月中に飲んでしまおう。

読書は、歴史と古典に重点を置き、往復1時間の電車通勤の時間を有効に使おう。

出逢い

自ら行動しなければ、家族以外と過ごす時間はほとんどない。それでも友達の紹介や過去の仕事のつながりで、出逢ったり関係が深まった友達がいる。

30歳前後年上の友達には親切にしてもらったことばかりで、人生そのものに学ぶべきことがあった。

現役世代で起業したての映像クリエイターからは時折作品の感想を求められ、役にも立たないが、彼が大きく育っていくのは楽しみである。別の映像クリエイターを紹介し、切磋琢磨して良い出逢となるよう願っているところである。

それでも一番は、高校時代から多くの時間を共有した友達とのひとときである。一緒にいるとホッとする。その一言に尽きるだろうか。

憧れ

「ビギナーズ・クラシックス日本の古典 西行 魂の旅路」西澤美仁,角川文庫,2010に、「鳥羽院の下北面の武士佐藤義清を出家に踏み切らせたものは、草庵への憧憬であったものと思われる」という一文がありハッとした。

草庵での生活が生易しいものではないことは想像でき、「ビギナーズ・クラシックス日本の古典 良寛 旅と人生」松本市壽,角川文庫,2009には、「五合庵は杉の木立に囲まれた小さな庵で、夏は涼しくとても快適な住居である。しかし夏の蚊や蠅などに悩まされたり、冬の寒さはまた格別だった」とある。

また「托鉢する僧はそんな対応にもじっと耐える『忍辱(にんにく)』の精神が求められ、柔和な態度で人々に接しなければならない」(同書)ともある。

僧の修行や生活はできようはずもなく、西行や瀬戸内晴美が子を振り払ったようなこともできないが、「世を捨てるだけでなく、世に捨てられることで初めて遁世になる」(前掲書「西行」)という発想に、一定の居心地の良さを感じる。

せめて心の中に草庵を持ち、そこからの視点を、これからも大切にしていこうと思っている。

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