最初につくった漆のラジオについても記しておく。
確かこの木材は同級生の製材所で買ったのだった。
10年にもわたる気になる製材店があったが、堅い材木のような怖い顔した人が店主のような気がし、入店をためらっていた。しかし他で気に入った木材が見つからず、観念して恐る恐るドアを開けた。
やはり怖い顔をした人が奥から出てきた。長身から見下ろされた。
「木を見せていただけますか?」
「どんなものに使いますか?」
「小さな木工細工をつくっていて、ラジオ本体に使う木を探しています」と答え、店主の顔をよく見たら、どこか見覚えがあった。
「あの…Sさんは昭和36年生まれでしょうか?」と思い切って尋ねてみた。中学の同級生ではないだろうか。
「そうですよ。K君でしょ。どうぞ自由に見てください」…なんだ、彼は私のことを最初からわかっていたんだ。失言などして角材で頭を割れれるかもしれないと思ったのは杞憂であった。
そこからは話が弾み、30分も話をした。
この木材には大きな節があり、昆虫のように見えた。木目も綺麗だ。
鮑貝を貼ろうと、電動ルーターで薄く削り切り出した。
貝の粉塵の飛散防止のためビニールで覆ったが、こんなものでは防ぎきれない。マスクにも大量の粉塵が付着した。
削り出した貝で穴の縁取りをした。貝が平らではないので、浮いたところは紙粘土で土台をつくった。こういうのは螺鈿とは言わないだろうが、その頃は螺鈿に入門したような気になっていた。
仕上げの漆は和紙で漉してゴミを取り除く。この器具も買うと2万円くらいするので、桐の空き箱で自作した。
ラジオの部品を取り付ける。
出来上がり。裏の扉を開くとこんな感じになる。
電池交換やFM/AM切り替えの時、扉を開く。
光が差すと蝶の模様が鮮明になる。
木目は、漆を塗った2年半前は消えてしまっていたが、その後徐々に透明度を増し、現在ははっきりと浮かび上がっている。これが漆の面白いところの一つだと思う。
今だったらもっと綺麗につくることができるが、こんな工作品でも愛着があって、何より気軽に使えるのがいいと思っている。
コメント