好奇心の連鎖 旅への逃避

ローカル線・バスの旅

昔の旅

「芭蕉はどんな旅をしたのか ~「奥の細道」の経済・関所・景観~」金森敦子,晶文社,2000を入手し、読み始めたら面白くて寝るのも惜しいくらい。こういう思いは「逝きし世の面影」渡辺京二,平凡社,2005以来か。

定価5,000円以上するところ1,390円で買ったが、定価分の価値は十分にある。用語索引もあり、こういう本は手放さない。

1689年当時の旅がどれだけ大変であったか、どのような旅支度をし費用はどうであったかなど、芭蕉の俳句そのものよりも興味がある。書架を漁っていたら「『奥の細道』を旅する」一個人編集部,KKベストセラーズ,2011を発見。そうか、昔から何となく興味はあったのだ。この本には現在の写真が沢山掲載されており、実際に芭蕉の旅を辿る際に役立ちそうだ。

「江戸の旅文化」神崎宣武,岩波書店,2004に「『旅行用心集』では、旅籠での心得ついて、以下のように説いているのである。(省略)一 旅は相宿は有勝なるものなれとも、手前を能用心すれば何事有ものにあらず。第一に戸じまりを心付、又宵より相客の様子を窺い知べし。若酒乱、狂気等の人ある時は、早速其用意すべし。相宿にて異変有しこと、其例少なからず」とあり、酒乱や狂った人と相部屋になった時にどのように用意したらいいのかしばし考える。直ぐ逃げられるよう荷をまとめておくことくらいしかできそうにないと思うのだが…。

「江戸温泉紀行」板坂耀子,平凡社,1987は30年近く書架にあるが、じっくり読むのはもう少し先になりそうだ。読んでいない本が沢山あった方が、書架の前に立った時に楽しい。

古典文学

今回芭蕉の本に行きついたきっかけは、ちくま学芸文庫で「徒然草」や「枕草子」「方丈記」などを読ん後、角川ソフィア文庫で「伊勢物語」「雨月物語」を読み、古典の面白さを知ったことだった。角川ソフィア文庫は入門者にとっつきやすく、「奥の細道」「とりかえばや物語」「竹取物語」を注文。

その後何を読もうか考えていたらドナルド・キーンの「百代の過客」講談社,2011が書架にあることを思い出した。古典の日記について書かれた本である。優先して読みたい日記とそうでないものの区別がついたのがよかった。

西行

「奥の細道」で、西行が立ち寄り歌を詠んだ場所を芭蕉が訪ねている。また西行が出てきた。

書架から「別冊太陽 西行 捨てて生きる」平凡社,2010を取り出して並行読みする。なぜ西行は陸奥に2回も行ったのか。いやそれよりも、なぜ世を捨てたのか、幼い娘を縁から蹴落としたのは本当なのか気になるところである。「西行」新潮文庫,白洲正子,1996が長らく書架にあるが、歌の完訳がないと私には難しく、少し読んでは書架に戻すことを繰り返している。西行の歌がわからないと出家の理由も理解できないと思ってはいるのだが。

奥州藤原氏・平泉

西行と芭蕉の本を読み「奥州藤原氏」「平泉の歴史」について知りたくなった。「奥州藤原氏」中央公論社,高橋崇,2002を読み始めたが、今はここまで細かいことに興味があるわけではないので書架に置く。メルカリでおまけについていた「伊達政宗の密使」大泉光一,洋泉社,2010の方がとっつきやすいので読み始める。伊達政宗のことも知りたいと思っていたのだった。

出家

西行の本を読んでいて「出家」について知りたくなった。キーンの「百代の過客」に、出家して残された人々の淋しさを伝える「多武峰少将(とうのみねしょうしょう)物語」が紹介されているが、多くの人が世を捨てた時代について他の本で知りたいと思う。ネットで本を探す。

遍路

出家した瀬戸内寂聴の小説で印象深いのは「女徳」。女性が描く性描写が生々しいと思ったが、寂聴だからだろう。源氏物語は寂聴訳で読んだ。「The 寂聴」角川学芸出版,2009の第5号、6号が「寂聴のお遍路」で、書架から引き抜く。

いつかお遍路しようと思っていたのだ。室戸岬の民宿の裏山に24番・最御崎寺(ほつみさきじ)があり、民宿の風呂で広島からの遍路に話を聞かせてもらった。夕食時に瓶ビール大瓶を4~5本飲んでいたのが印象に残っている。歩いたら喉乾くだろうな。

他にも遍路の本があったはず。「四国八十八カ所つなぎ遍路」KKベストセラーズ,家田荘子,2014と「四国遍路」辰濃和男,岩波書店,2001を書架に発見。

家田さんの講演を聞いた後、本にサインしてもらった。「ドメスティックバイオレンスの影響で、今でも目の前の人が、ちょっと腕を上げる仕草をしただけで、殴られるのではないかと反応してしまう」と言っていたのを思い出した。

旅への逃避

書架から取り出した本を並べてみて、あらためて「旅」に居場所を求めていたことがわかった。

瀬戸内海

そもそもの旅のはじまりは「尾道」だったと思う。その後、瀬戸内海の島、町へは何度も旅し、瀬戸内海の歴史にも興味を持った。

「瀬戸内海島旅入門」マイナビ出版,斎藤潤,2016は、カラー写真が豊富で、民宿の料理を見て因島の旅を思い出した。「しまなみ海道 大人の島旅」春野草結,南々社,2009は「島一周サイクリング情報・マップ付」で、地元広島の出版社だけあって頼りになりそうと購入したもの。

ローカル鉄道・ローカル路線バス

旅の楽しみの一つに、ローカル鉄道、ローカル路線バスがある。

「鉄道ひとり旅入門」今尾恵介,筑摩書房,2011を読んで、見知らぬ町を旅した気分に浸る。

「駅前旅館に泊まるローカル線の旅」大穂耕一郎,筑摩書房,2002は魅力ある本だが、紹介されている白黒写真の旅館は今どれだけ残っているのだろうかと心配になったりもする。

「飯田線ものがたり」太田朋子・神川靖子,新評論,2017は、鉄道敷設の歴史から始まり、各駅が紹介されている。青春18きっぷで旅をした時、どこで下車し何をするか、この本が大いに役に立った。駅舎が温泉ホテルになっている平岡で、ベッドで横になり列車の通過を感じていたことが懐かしい。

「ローカル路線バス終点への旅」加藤佳一,洋泉社,2017も味わい深い本。旅の計画を立てる際、路線バスの時刻を調べるのは面倒だが、予定通りに乗車し、流れる車窓の風景に自身が溶け込んだと思えた時は至福である。

ローカル鉄道・ローカル路線バスがいつまで存続できるのか、「ローカル鉄道という希望」田中輝美,河出書房新社,2016を読んで希望を持ち、私自身何ができるか考えたりもした。

放浪

ひとり旅を繰り返していた時期、そこにあったのは現実からの逃避だった。元々旅とはそういうものだろうが、私の場合は頻繁だった。今は「男はつらいよ」を観ては、自身の旅と重ねている。

放浪詩人、高木護について書かれた「放浪と土と文学と」澤宮優,現代書館,2005で、放浪に憧れのようなものは抱いても、高木護や芭蕉、西行のような旅はできるはずもない。想像の世界で自身を重ねるのが精一杯。つげ義春の「貧困旅行記」晶文社,1991の旅あたりが、一番身近に感じるところである。

知らない町には知らない何かがあり、それを発見することと、その土地の人との一期一会の出逢いが旅の醍醐味だが、そこには負うべき「責任」というものがない。責任を負わない生き方、いわば「無責任」こそが私の根底にあり続け、それが私と他人との関係を理解する鍵であることが、この頃になってやっとわかってきた。

とは言えそう簡単に変えられることでもなく、なるべく人に迷惑を掛けないよう静かにしているのが一番だと自身に言い聞かせている。

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