この秋、私に隠れ家ができるかもしれない。とある鄙びた町の駅の改札から徒歩1分のところに、そのビルはある。ビルの1階は商いを行っており、空いている2階が隠れ家になる。
ビルの所有者は私同様、残り少ない人生においてお金を儲けようという考えがない。今、生きている証が得られる空間を作り出せないものかと、二人で相談している。
かつてそこはスナックだったようだ。背もたれの高いソファとガラステーブルがフロアを埋め尽くしている。オーナーに問われ、備品類はほぼ全て処分する考えを伝えた。
据え付けられたカウンターは費用面で残ることになり、それを使えるよう椅子を残すことにした。
体が回復したらああしよう、こうしようと半ば妄想のように考えが巡る。
読み終わった本を本棚(食器棚)に並べていったら、死ぬまでにどれくらいになるだろうか。
カウンターで冷たいビールを飲みながら、古びた文庫本を読むのもいいかもしれない。筆が止まってしまった小説は滑らかに再スタートできるだろうか。完成したら1冊だけ印刷して、挿絵を入れて書架に並べよう。
鉄道路線図を壁に貼り、未だ降り立ったことがない駅から住宅地まで歩き、いっとき知らない町の住人になることを想像するのも楽しそうだ。
朝、仕事に出かけるように家を出て、隠れ家のカウンター椅子に座って半日を過ごす。ビールは大瓶1本までとしよう。小説の筆が進んだら、夕方まで書き続け、馴染の居酒屋の女将に話をするのもいいだろう。
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